エルヴィス・プレスリーの名曲も南北戦争の士気を高めるための音楽だった

リンカーンが初めて大統領に就任したときの演説

南北戦争は異なる国の兵士が音楽で士気を高めた

リンカーン大統領が演説したことで有名なアメリ南北戦争は、音楽の戦争でもありました。

アメリカ合衆国経済のリーダーシップを握ろうとする北部州が、南部州の多くの労働力を必要とするプランテーション農業の発展を抑え込むべく奴隷制度廃止運動を進めるなど、さまざまな思惑が絡んで、南部11州がアメリカ合衆国から脱退。

脱退した南部11州は、アメリカ連合国を結成し、北部23州と戦ったのが南北戦争です。南部11州、北部23州と一言でいっても、知っての通り、北アメリカ大陸はバカ広く、両陣営ともほぼ〝多国籍軍〟に近い編成でした。

そこで彼らをひとつに束ねるのに重要視されたのが、音楽隊でした。彼らの演奏に合わせて兵士たちは歌い、絆を深めていくわけです。「ディキシー」や「ジョニーが凱旋するとき」などが歌われ、南北軍ともに、鼓笛隊やラッパ隊を含め、多数のミュ ージシャンが従軍していましいた。酸鼻を極めた戦場においても、常に歌と演奏が鳴り響いていたのです。

トーマス・エジソンが初の録音媒体である円柱型アナログ・レコ ードを発明するのは、南北戦争終戦から12年後の1877年。そのため、リアルタイムでは当時の楽曲はレコーディングされていません。

しかし、当時の唱歌は形を変えながら、歌われ続けてきました。戦地から恋人を想う「オウラ・リ ー」は南北両軍に歌われていましたが、そのメロディに新しい歌詞をつけたのが、エルヴィス・プレスリーの「ラヴ・ミ ー・テンダー」でした。1956年に発表されたこの曲はオリジナル以上に有名です。


「ジョニーが凱旋するとき」は〝戦場に行ったジョニーが帰ってきた〟と喜ぶ歌でしたが、その原曲はアイルランド民謡「ジョニー・アイ・ハードリー・ニュー・ヤ」で、〝ジョニーは戦地から無言の帰宅をした〟という反戦歌でした。近年のロック音楽では、再び原曲の反戦的なイメ ージが押し出されるようになり、ザ・クラッシュの「イングリッシュ・シヴィル・ウォー」(1979)やゲイリー・ムーア&フィル・ライノットの「アウト・イン・ザ・フィールズ」(1985)でも引用されています。


南北戦争を題材にした作品たち

南北戦争を題材にしたロック・ソングでは、ザ・バンドの「オールド・ディキシー・ダウン」 (1969)が有名だろう。南軍の敗北を題材としたこの曲では 1865年5月10日に連合国の首都リッチモンドが陥落したと哀歓を込めて歌っていますが、実際には4月にリッチモンドは既に北軍の占領下にあり、 5月10日には連合国大統領ジェファーソン・デイヴィスが拘束されています。

アイスド・アースのギタリスト、ジョン・シェイファーは歴史マニアが高じて、インディアナ州コロンバスに歴史グッズ/メモラビリア専門店をオ ープンしたほどですが、アルバム 『ザ・グロリアス・バーデン』 (2004)はそんな彼の歴史マニアぶりが全開です。


このアルバムではアメリカ独立戦争第一次世界大戦ワーテルローの合戦、フン族アッティラ大王などを題材として取り上げていますが、「ゲティスバーグ」(1863)ではタイトル通り、南北戦争の天下分け目となった、ゲティスバーグの戦いについて歌っています。約3 2分、三部構成のこの曲で、シェイファーは歴史的事実を忠実に描写。 「1863年7月、国家は悲劇に引き裂かれ/運命のいたずらで、ふたつの偉大なる軍隊が交わる/ゲティスバ ーグの戦争の神々」と、重要な場所や数字がしっかり歌詞に盛りこまれています。

オーケストラを加えた壮大なメタル・サウンドに乗せて、歴史の勉強まで出来てしまうのが嬉しい。さらに曲にイメ ージ映像や政治家・軍人たちの画像を交えた映像版『ゲティスバーグ』も DVDとして発表されており、より理解を深めることが出来ます。




『死霊の餌 /南軍ゾンビの逆襲 』(1987)や『リンカ ーン/秘密の書』(2012)など、映画の世界においても南軍ゾンビや南軍ヴァンパイアは活躍しています。後者の設定は、黒人奴隷は貴重な〝食料のため、南軍ヴァンパイアが奴隷制度廃止に反対したという、なるほど!と思わず膝を打つ説得力がありますね。